ラティアの月光宝花
「きゃあっ!」

最後の一、二段を踏み外し、セシーリアは膝から路地に崩れ落ちた。

身体の痛みよりも心の痛みがセシーリアを支配し、それが嗚咽となってこぼれる。

その時、

「セシーリア!!なにやってるんだよ?!あまりにも遅いから心配し……て……」

急にシーグルの声がして、セシーリアは涙に濡れた顔を上げた。

「シーグル……」

シーグルが血相を変えてセシーリアを抱き起こす。

「何があったの、セシーリア!?」

ダメ。

ダメよ、シーグルが心配する。

シーグルは私よりも年下でまだ子供だもの。

こんなこと、話せない。

セシーリアはゴシゴシと涙を拭うと大きく息を吐いた。

「なんでもないのよ。早くここを出ましょう」

少しでも、少しでも早くシーグルをここから遠ざけなければ。

この子はまだ子供だから。

その時、

「セシーリア様、待ってください……!」

運悪く、セシーリアを追ってきたオリビエの声に、シーグルが驚いて視線の方向を変えた。

「兄さん……?」

オリビエの顔がグッと歪んだ。

一方シーグルは、胸まではだけたオリビエの服の間にある、赤い花びらのようなアザを見つけて硬直した。

それから、オリビエとセシーリアが降りてきた階段を見上げる。
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