ラティアの月光宝花
「……何してたんだ、兄さん」

耐えられなくなり、セシーリアがシーグルの腕を引いた。

「いいから行きましょう、シーグル」

「よくない!」

シーグルはその赤いアザの意味が分からないほど幼くはなかった。

いつか街から帰ってきた兵士の話を盗み聞きした事があったからだ。

……兄さんは、ここで女を抱いてたんだ。

それを見たセシーリアが泣いている。

なのに兄さんは、そんなセシーリアを追いかけて……。

許せない。

許せる訳がない。

セシーリアの涙の意味が分からないなんて言わせない!

酷い有り様を見せておいて、己の身を守るために残酷にも泣いているセシーリアを追いかけるなんて……!

「うっ……!!」

鈍い音の後、路地の隅に置いてあった木桶が派手な音を立てた。

16歳のシーグルのどこに、2歳年上の兄を殴り飛ばす力があったのかと思うほど、殴られたオリビエの身体が地に転がった。

地面に手を付き、口元から血を流すオリビエに、シーグルが叩き付けるように叫んだ。

「兄さんにセシーリアは渡さない!!」

セシーリアは俺が守る!

「シーグル……」

セシーリアは涙が止まる思いでシーグルを見つめた。

「たった今からセシーリアは俺が守る!二度とセシーリアに近付くなっ!」

シーグルはセシーリアの腕を掴むと大股で歩き、大通りを目指した。

それから、先ほどの言葉通り胸に誓った。

セシーリアは俺が守る。

何があっても必ず。

俺の一生をかけて。
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