ラティアの月光宝花

榛色の真実

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めっきりとセシーリアはオリビエの前に姿を見せなくなった。

季節は真夏を過ぎ、幾分かは過ごしやすくなりつつあったある爽やかな日の事である。

哲学者ファルドの講義が終わり、オリビエ達三人は昼食後の自由時間の使い道を話し合うべく噴水のそばに集まっていた。

「にしてもアホだな、お前は」

アンリオンの声に、マルケルスもまた大きく頷いた。

「なあオリビエ、もういい加減にセシーリアに謝れよ。セシーリアの奴、俺とアンリオンにまで冷たいんだ」

マルケルスがぼやくと、アンリオンが溜め息をついた。

「この間、神殿の前でセシーリアに声をかけたら、アイツ何て言ったと思う?
『あら、今日はあの路地の怪しいお店に行かないの?いいえ、別に私は非難なんてしてないのよ。あなた達は男だし、仕方ないわ。あ、そうだ!あのお店のセシーリアさんによろしくね』
だと!ラティア帝国の王女の『よろしく』を売春婦に伝えられるかっ!」

アンリオンがセシーリアの声色を真似たのが思いの外良く似ていて、これにはさすがにオリビエも苦笑した。

「店のあの娘の名は、セシーリアじゃないんだ」

「知ってるよ、そんなことは!」

「だから謝れと言ってるんだ。お前、セシーリアに少しだけ似ているあの娘を、アイツの代わりにしたんだろ」

「…………」

「大体なぁ、なんでお前だけセシーリアに使用人みたいな口きいてるんだよ。アイツは王女だが、俺達は幼馴染みじゃないか」

「…………」

「好きなんだろ?セシーリアが」

噴水の前の石畳に寝転がり、空を見たままマルケルスがポツンと呟くように言った。

「いつまでもウジウジしてると、シーグルに盗られるぞ」
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