ラティアの月光宝花
アンリオンがオリビエを肘で付くと、武術練習場を顎で指した。

オリビエがアンリオンの脇から眼下の練習場に眼をやると、シーグルがグラデス(短剣)を手に、一番隊の歩兵隊長に手ほどきを受けているところだった。

「なあ知ってるか?シーグルのグラデスの腕前が一段と上がってるのを。アイツ、柔術もやってるみたいだ。しかも、弓の技術は近衛兵の弓矢隊長に匹敵する程だぜ?!」

「ああ……知ってる」

兄であるオリビエがそれを知らないわけがなかった。

16歳のシーグルにスティーダ(長剣)は体力的に無理だとしても、グラデスならそれほど重くなく扱いやすい。

それに弓矢に関していうなら、シーグルは先天的に優れていた。

弓を引く際に使う特別な筋肉の発達、すば抜けた集中力と思いきりの良さ。

近射であろうが遠射であろうが、よほどの強風でない限りシーグルが的を外すことはまずなかった。

オリビエは歩兵隊長相手にグラデスを突き出すシーグルを見つめながら思った。


『兄さんにセシーリアは渡さない!』


憎しみの光を宿しながらも泣き出しそうな顔でこちらを睨んだシーグル。

あれ以来、シーグルはオリビエにまとわり付かなくなった。

いつも三人の後を付き回り、何でも真似したがったのに。

今では独りで勉学に励み、独りで武術の腕を磨く。

……もしかしてシーグルは、本気でセシーリアを。

オリビエはシーグルの信念を感じ、知らず知らずのうちに奥歯を噛み締めた。
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