ラティアの月光宝花
その時、

「シーグル!」

北側の入り口からセシーリアが馬に乗って練習場に入り、そのまま中央にいたシーグルの傍まで駆け寄った。

「セシーリア、どうしたの?」

シーグルが額の汗を拭いながらセシーリアを見上げて笑った。

「訓練、終わったの?もし終わったならお昼を一緒に食べましょう」

「ああ」

「乗って」

「いいよ、セシーリアの服が汚れる。汗だくだし砂だらけなんだ。後で落ち合おう」

「だめ!一緒に行きたいの!いいから乗って!」

そんなセシーリアにシーグルが諦めたように苦笑した。

「……分かった」

馬の首元に移動したセシーリアから束ねた手綱を受け取ると、シーグルは左手でそれを持ち直し、鐙に足をかけて勢いよく馬にまたがった。

それからセシーリアを両腕に囲うようにして、手綱を引く。

「行こうか」

「うん」

「……おいおい……恋人同士か、あれは」

マルケルスが、仲良く馬に乗って練習場を後にした二人を見送りながら溜め息をついた。

「まあ、ウジウジしてる誰かさんよりはセシーリアに相応しいか」

冗談めかしてそう言ったアンリオンの言葉が、火種となりオリビエの胸に焦げ跡を作った。

たちまちそこが燻り、どす黒い煙が身体中に充満する。


『油断してると追い越すからな!』


オリビエの心に、シーグルの言葉がいつまでも響いていた。
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