ラティアの月光宝花
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「セシーリア様、なんですかこれは」
セシーリアの指導役として四年前から城に上がっているマリアが、幽霊でも見ているような顔でセシーリアの渡した布を見つめた。
「なんですかって、刺繍よ、刺繍!」
「雑巾の間違いでは?!」
……言ってくれるじゃないの。
ここ何日もかかって仕上げた刺繍を、雑巾と言ってのけるなんて。
セシーリアは完成したばかりの『雑巾』を破り捨てたい気持ちになりながら唇を引き結んだ。
一方マリアも王女相手だと理解はしていてもこの憤りを抑えることが出来なかった。
セシーリアは、刺繍が下手すぎる。
ラティアの国花である薔薇の刺繍を教えたはずが、セシーリアの作り上げたものは薔薇には程遠く、百歩譲ったとしても到底花には見えなかった。
いや、花というよりはもはや血を拭き取った後の布にしか見えない。
その上彼女の指には無数の刺し傷が跡になっていた。
さて、どうしたものか。
四年間も教えているのにまるで上達しないなんて。
このままでは私、クビになるかも知れないわ。
マリアが深い溜め息をついた時、セシーリアが悪びれる様子もなくサラリと言った。
「ねえマリア。正直に言うけど刺繍なんて何の役にも立たないと思うのよ。まだ料理のがマシじゃない?」
料理……。
この王女が、料理……。
ブルッと身震いしてマリアは口を開いた。
「セシーリア様。貴女は王女ですよ?王女様が料理など……あり得ません」
「セシーリア様、なんですかこれは」
セシーリアの指導役として四年前から城に上がっているマリアが、幽霊でも見ているような顔でセシーリアの渡した布を見つめた。
「なんですかって、刺繍よ、刺繍!」
「雑巾の間違いでは?!」
……言ってくれるじゃないの。
ここ何日もかかって仕上げた刺繍を、雑巾と言ってのけるなんて。
セシーリアは完成したばかりの『雑巾』を破り捨てたい気持ちになりながら唇を引き結んだ。
一方マリアも王女相手だと理解はしていてもこの憤りを抑えることが出来なかった。
セシーリアは、刺繍が下手すぎる。
ラティアの国花である薔薇の刺繍を教えたはずが、セシーリアの作り上げたものは薔薇には程遠く、百歩譲ったとしても到底花には見えなかった。
いや、花というよりはもはや血を拭き取った後の布にしか見えない。
その上彼女の指には無数の刺し傷が跡になっていた。
さて、どうしたものか。
四年間も教えているのにまるで上達しないなんて。
このままでは私、クビになるかも知れないわ。
マリアが深い溜め息をついた時、セシーリアが悪びれる様子もなくサラリと言った。
「ねえマリア。正直に言うけど刺繍なんて何の役にも立たないと思うのよ。まだ料理のがマシじゃない?」
料理……。
この王女が、料理……。
ブルッと身震いしてマリアは口を開いた。
「セシーリア様。貴女は王女ですよ?王女様が料理など……あり得ません」