ラティアの月光宝花
その、縮まることのない距離がセシーリアを悲しくさせる。

オリビエは……私が嫌いなんだろうか……。

セシーリアは17歳オリビエは18歳である。

お互い物心が付く前から共に育ち、共に学んできた間柄である。

オリビエは物腰柔らかく、何事も一度自分の中で噛み砕き、理解してから行動する。

だからいまだにセシーリアは、オリビエが取り乱すところや、感情に任せて何かを口走るのを聞いたことがなかった。

一方セシーリアはオリビエのそれとは真逆で、常に直感で行動している。

「私よりもオリビエの方が王女に相応しいわね」

セシーリアは口に出してこう言うと、魚釣りに来た浅瀬を見つめた。

音をたてて石にぶつかりながら流れていく清らかな水を見つめていると、セシーリアの脳裏にオリビエの顔が浮かぶ。

オリビエはとても整った顔をしていて、その肢体は長くスラリとしていて伸びやかである。

中性的な彼の顔立ちは、セシーリアよりも女っぽいかも知れなかった。

ああ、もう!

どうして私ばかりが、こんなにモヤモヤしなきゃならないのかしら!

セシーリアは、馬宿の老番兵に借りた竿でバシッと水面を叩いた。

「うわっ!セシーリア!魚が逃げるじゃないか!今日は宮殿での夕飯はやめて、釣った魚を塩焼きにして食べる約束だろ?!」

オリビエの弟で今年16歳になったばかりのシーグルが、押し殺した声でセシーリアに文句を言うと、セシーリアはハッと我に返った。

「あ、ごめん。そうだったわ」

セシーリアはそう言うと、岩に飛び移りながら釣り場を変えるシーグルの背中を見つめた。
< 4 / 196 >

この作品をシェア

pagetop