ラティアの月光宝花
明るい日の光を思わせる黄色い薔薇の隣には抜けるような空色の薔薇が咲いているし、闇のような黒い花びらの薔薇もある。

どの薔薇も、花びらの色は違えどしっかりと天を仰ぎ、凛とした姿である。

セシーリアは咲き誇る薔薇の中で、静かに口を開いた。

「私も……こんな薔薇になりたい」

「貴女は既にラティアの薔薇だ」

ビクッと身構えて声のした方を見ると、薔薇園の入り口にオリビエの姿が見えた。

オリビエの榛色の瞳にランプの明かりが柔らかく反射し、それがあまりにも美しくて、セシーリアの鼓動が跳ねた。

「……なに?」

けれどそんな自分を悟られたくなくて、セシーリアは視線を落として硬い声を出した。

「馬上での剣術の稽古の帰りにセシーリア様が見えましたので」

「……そう」

「貴女は?」

少し眼を上げてオリビエを見ると、彼は真っ直ぐにセシーリアを見つめていた。

……そんな風に見ないでほしい。

こんな潔い眼差しを、私に向けないで。

そんな顔で見つめられると、この恋が叶わなかったと実感させられる。

胸に鉛を流し込まれたような苦しさがセシーリアを襲った。

仕方がないって分かってるのに。

だってオリビエはあのお店の『セシーリア』さんが好きなんだもの。

私じゃないのだから、仕方がない。

セシーリアは一生懸命自分の心にそう言い聞かせると、出来るだけ口調に感情を込めずに言った。
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