ラティアの月光宝花
「そう。ご苦労様。私はシーグルの部屋に飾る薔薇を摘みに来たの」

……あながち嘘ではない。

昼間、セシーリアがシーグルの部屋の中を見て味気ない部屋だと指摘すると、シーグルは『白い薔薇なら飾ってもいい』と言ったのだ。

……早くオリビエから離れたい。

だって、辛いもの。

セシーリアは持ってきたハサミで純白の薔薇を数本摘むと、トゲを取り、ひとまとめにした。

「じゃあ……さよなら」

「シーグルが好きなのですか」

「っ……!」

ぶつけるようにそう言ったオリビエに驚いて、思わずセシーリアは硬直した。

反射的に見たオリビエの顔は氷のように冷たい。

「貴女はあんな子供がいいのですか」

セシーリアの返事も待たずにオリビエは言葉を重ねた。

「あなたの護衛役はシーグルではなく、この僕だ」

言い終えたオリビエがグッと唇を引き結んだ。

……何が言いたいの、オリビエは。

私を……シーグルを馬鹿にしているの?!

セシーリアは目眩がしそうになるのを必死で抑え、大きく息をすると敢然と口を開いた。

「確かにシーグルは16歳だけれど、背も高くとても逞しい身体をしているわ。それに優しくて頼りがいもある。あの子をただの16歳の子供だと思わないで。それに、お前は私に構う暇などないでしょう?!」

次第にイラついてきて、セシーリアはオリビエを睨んだ。

「あなたが心配なんだ」
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