ラティアの月光宝花
「心配なのは、我が身でしょう?!私と離れている事実をレイゲンにどう申し開きしようかと気が気じゃないのよね!?だってお前は、あの薄暗い店の『セシーリア』に会う時間を作らなきゃならないもの。私に煩わせられたくないわよね。ああ、私なら平気よ!?レイゲンにはこう言えばいいわ。『父上、王女はシーグルを護衛役にしたいそうです』とね!」

セシーリアが険を含んだ眼差しを向けてこう捲し立てると、オリビエは奥歯をギリッと噛み締めた。

それから荒々しい足取りで門をくぐると、大股で歩を進め、あっという間にセシーリアの真正面に立つ。

「な、によ」

榛色の瞳が苛立たしげに瞬き、セシーリアは思わず息を飲んだ。

こんなオリビエを見たのは初めてだったのだ。

苛立たしさを隠そうともせず、地響きがしそうな勢いで距離を詰めたオリビエ。

「確かに、我が身も心配です。あなたが好き放題して身に危険が迫ると、父上に叱られるのはこの僕だ!貴女はまるで分かっていない!」

オリビエはそこで言葉を切り、大きく息をつくと続けた。

「以前言いましたね。僕が貴女の上をいくなら何でも言うことを聞くと」

ギクリとしてセシーリアは喉を動かした。

……確かに言った。

けれどそう言ったのは、オリビエと近衛兵アデルとの手合わせを見る前だった。

それよりも前のオリビエは、私との練習時、負けてばかりいたから……。

彼の腕前をその程度だと思っていたからこその言葉であって、あんなに強いと分かっていたら言わなかった。

グッと言葉に詰まるセシーリアを、オリビエは至近距離から見下ろしてニヤリと笑った。

「今から……勝負していただきたい、僕と」

言いながらオリビエは、背中の袋からスラリと練習用のスティーダ(長剣)を引き抜いた。
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