ラティアの月光宝花
「貴女が勝ったら、誰とでもいればいい。それがシーグルだろうが、僕は口出ししない。けれど僕に負けたら……」

オリビエがスティーダを回転させて、その柄をセシーリアに差し出しながら再び口を開く。

「シーグルではなく、僕のそばにいてもらう。ずっと」

端正な顔を斜めに傾け、僅かに両目を細めてこちらを見つめるオリビエに、セシーリアの胸がドキンと高鳴りその身が震えた。

……なんて卑怯なの。

剣術の腕前を偽り、油断させておいてこんな事を。

私がお前に勝てないと分かっておきながら、こんな事を!

「卑怯者」

セシーリアがグッと睨むと、それを見たオリビエが僅かに眉を上げた。

「卑怯なのは貴女だ」

「どういう意味?」

「……」

「言いなさいよ!」

オリビエが眉を寄せて奥歯を噛み締めた。

それから言う気がないといったようにホッと小さく息をついて、セシーリアを一瞥した。

「拒否するなら、国王様に貴女の素行をすべてご報告いたします。常習的に城を抜け出し、釣りどころかエルフの街まで下りて遊び呆けていると。……すぐに縁談話が舞い込むかもしれませんね。あなたが傷物になる前に」

「受けて立つわ!」

オリビエの言葉と重ねるように叫ぶと、セシーリアは差し出されたスティーダを奪うように掴んだ。

それから薔薇から遠ざかり、足場を確認すると、セシーリアはスティーダの切っ先をオリビエの喉元へ向けて叫んだ。

「いくわよ」

「いつでも」

余裕の笑みを見せてスティーダを構えたオリビエが憎らしい。
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