ラティアの月光宝花
悔しい、悔しい!

仰向けに倒れ、唇を噛み締めたセシーリアを見下ろしていたオリビエが、ゆっくりと足をどけると身を屈めた。

「さあ、手を」

言いながらオリビエはスティーダを置くと、少し微笑んで手を差しのべた。

その仕草は、まるでどこかの国の王子のように優雅で、セシーリアは一瞬眼を見開いた。

……でも。

一撃も入れないで負ける気はないわ。

セシーリアはゆっくりと手を伸ばし、オリビエの手を掴んだ。

……今だ。

「うっ……!」

セシーリアは立ち上がりながら、完全に油断しているオリビエの顔面に頭突きをし、素早く空いている手で彼の腹に拳を突き出した。

「降参なんて誰も言ってないわよ!」

やったわ!

「クソッ!」

「あっ!離してっ!」

振りほどこうとした手を痛いほど掴まれて、セシーリアは焦ってオリビエを見上げた。

「離さない!」

「きゃああっ!」

グイッと引き寄せられてオリビエの胸に抱かれたセシーリアは、フワリと浮くような感覚がして咄嗟に歯を食い縛り、眼を閉じた。

投げ飛ばされるのを想定し、身構えたセシーリアの耳にオリビエの声が届く。

「……セシーリア、眼を開けて」

「っ……!」

至近距離にオリビエの顔を見つけて、セシーリアはあからさまに息を飲んだ。
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