ラティアの月光宝花
「分かった分かった!行ってこい!俺、今日は休みなんだ。貴重な休日をお前のお守りに使いたくない。部屋にこもって戦法を考えたり新しい武器の考案に時間を費やしたいんだ」

「……マルケルス……あなた、感じ悪いわね。まあいいわ、オリビエにさえ見つからなきゃ。もし見つかって私が彼に叱られたら、あなたが三股かけてることを全員にバラすからね」

……コイツ。

マルケルスは、全力でワガママ王女気質をぶつけてくるセシーリアを腹立たしく思いながら、皮肉を込めて頭を垂れた。

「いってらっしゃいませ王女様。無事のご帰還をお祈りしております。くれぐれも妙な男にからまれても軽々しく弓で射殺したりなさらぬよう」

いつかバラしてやるわ。

セシーリアはそう思いながら愛馬シーラにまたがり、颯爽と城を後にした。



*****

アンリオンとオリビエの話を盗み聞きしたところによると……確かここだと言っていたような……。

セシーリアはグロディーゼ(剣闘士)の館の前で馬を止めると、馬上から開いている門を見つめた。

ラティア帝国においてグロディーゼとは奴隷ではなく、大工や商人と同じように確立された職業である。

女達は屈強なグロディーゼに男としての魅力を感じ、若い男達も尚、強い憧れを抱いてグロディーゼ養成所の門を叩く者が後を絶たない。

どうしよう……入ってみようか。

セシーリアは愛馬から降りるとすぐ近くの繋ぎ石に手綱を結び、開け放たれたままの扉に近付いた。

そっと中を覗き見ると、養成所は驚くほどに広く、筋骨隆々な男達が武器を手にして鍛練に励んでいるのが眼に飛び込む。
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