ラティアの月光宝花
所狭しと訓練に励む男達の掛け声と立ち回る際に上がる砂煙に、セシーリアは圧倒されて眼を見張った。

これじゃあ……何処にいるのか分からないわ。

「ねえ、あなた」

セシーリアは水飲み場に歩を進めると、忙しそうに働く小柄な少年に声をかけた。

桶を手にこちらを振り返った少年は、驚いたようにセシーリアを見つめたが、セシーリアはフワリと微笑むと質問を続けた。

「ここに、シーグルという男の子がいるでしょう?彼はどこ?」

その時である。

地を這うような獣の唸り声が上がったかと思うと、男達の歓声が辺りに響き渡った。

瞬く間に、何か答えようとしていた少年の声がかき消される。

「誰が闘う?!」

「獣相手は骨が折れる。今日は俺、午前中に三試合も闘ったんだ。新人戦前の奴に譲るぜ」

声は聞こえるものの、人だかりのせいで何が起こっているのかは分からない。

セシーリアはただならぬ雰囲気を感じて、少年に質問した。

「何が始まるの?」

少年はセシーリアをぎこちなく見つめて口を開いた。

「所長が仕入れてきた手負いの豹と誰が闘うかだと思うんだけど」

手負いの豹……。

少年は続けた。

「もうすぐセシーリア王女の誕生大祭典があるだろ?その時に城にあがるグロディーゼ(剣闘士)の養成所がここに決まったんだ。王女の前で披露する剣闘が猛獣相手だと決まって……」

少年がそこまで答えとき、人混みが割れた。
< 56 / 196 >

この作品をシェア

pagetop