ラティアの月光宝花
セシーリアの眼に豹の姿が飛び込む。

切れ上がったように引き締まっている腹や、しなやかな線を描く背が堪らなく美しい。

「あれが手負いの豹?」

少年が軽く頷いた。 

「ああ。生き残ってるのはあの豹だけなんだ」

しなやかな身体を低く構え、牙を剥き出した豹が、グロディーゼ達を睨み据えながら括られた木を軸に円を描くように歩いている。

セシーリアが見守る中、傷を負った豹は身体のバランスを崩し、地面に顎を強打した。

アッと思わず声を出したセシーリアに、少年が口を開く。

「豹の毛皮は金持ちに高額で売れるんだ。あいつも猟師に足をやられたらしくて腐りかけてる」

「そんな豹を訓練の為に殺すの?」

「僕たちはグロディーゼだ。闘うのが仕事なんだ」

セシーリアは憤りを隠せず、グッと眉を寄せて少年を見つめた。

「怪我してる相手に……卑怯よ」

「怪我してても豹は強いんだ。新人のグロディーゼなら負けるかもしれない。僕たちは命のやり取りを見せるのが仕事なんだ。だから所長が傷が付いて売り物にならない豹を安く買ってきたんだ。自分のグロディーゼ達に実戦さながらの訓練をさせる為に」

少年の言葉が途切れた直後、一際豹が低く唸った。

その威嚇を、取り囲んでいたグロディーゼ達が嘲笑った。

「なかなかの根性だな」

「さあ、誰かいないか? 練れ者(ねれもの)でもいいぞ」

よく響く低い声がそう問いかけた直後、

「では見本を見せるために、このアルディンが受けて立とう」

セシーリアは眉を寄せたまま、豹を取り囲むグロディーゼ達を見つめた。
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