ラティアの月光宝花
セシーリアは露台に立つと、迷いなく弓を構えた。

「な、ちょっと、何やって……」

「あのグロディーゼが持っているグラデス(短剣)を射落としてやるわ」

少年は驚いて思わず叫んだ。

「無理だよ。女の子が弓を引いてあんな所まで矢を放てるわけない」

セシーリアはアルディンの右手のグラデスにピタリと狙いを定めて口を開いた。

「無理かどうか……よく見てなさい」

アルディンがグラデスの切っ先を空に向けたその瞬間を、セシーリアは見逃さなかった。

「っ……!」

セシーリアの放った矢が一直線に飛ぶ。

「!!」

セシーリアの指を離れ空気を切り裂くように飛んだ矢が、グラデスに当たった後、柵に絡まるようにして止まった。

それとほぼ同時にアルディンの手から弾け飛んで地を滑ったグラデスに、グロディーゼ達が息を飲む。

そんな中アルディンだけが、当たりを見回す事をせず、なんの迷いもなく武器庫の露台で弓を構えているセシーリアを見た。

互いの視線が絡む。

アルディンが僅かに両目を細めた。

……誰だあれは。

「そこのグロディーゼ!これ以上その豹を傷付けるのなら、次はお前の額を射抜くわよ」

よく通る澄んだ声を張り上げたセシーリアを、すべての人間が見上げた。

アルディンは、どう見てもそれが少女であることに驚いたが、豹の足元へ弾け飛んだグラデスを見て闘いを諦め、柵を開けて外へと出た。

「なんだ?!あの女は何者なんだ」

「一体何しに来たんだ」

たちまちザワザワとグロディーゼ達が騒ぎ出す。
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