ラティアの月光宝花
ビクッとしたセシーリアとシーグルを睨み付けて、メイヤは叫んだ。

二人と仲の良い門兵達も、同じくビクリと背筋を伸ばし、怒り狂うメイヤを張り付いたように見つめた。

「わ、わ、わ、私はお二人の身を案じて……城の北の川は、流れがきつく流されでもしたらどうするのです?!それに、熊に遭遇する可能性もありますし、なにより誰か良からぬ者に狙われでもしたら……」

大きく息つぎをした後、メイヤは再び続けた。

「セシーリア様、あなた様はいずれこのラティア帝国をお継ぎになる身。それにシーグル様。あなたはセシーリア様を支える身でありましょう?!それなのに」

だめ、これは長くなるわ。

もうこの辺で。

セシーリアは、怒りを顕にして捲し立てているメイヤにギュッとしがみつくと彼女の耳元に口を寄せた。

「ありがと、メイヤ。大好きよ!」

「あらっ、まあ、セシーリア様……!」

言葉を失い、真ん丸な眼で突っ立っているメイヤの脇をすり抜けると、セシーリアはシーグルの腕を掴んだ。

「シーグル!走るわよ!」

「うん、セシーリア!」

二人は風のように走った。

*****

「あっははははは!見た!?メイヤのあの顔!」

「見た見た!しかもさ、あんまり全速力で走ったものだから、俺の麻袋から魚の頭が飛び出してさ、後頭部に刺さるところだった!」

「あはははっ、バカよバカ!自分の釣った魚が頭に刺さるなんて」

植え込みの間を抜けながら、セシーリアはシーグルを振り返って笑った。
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