ラティアの月光宝花
そんな中、柵から出たアルディンは唇を引き結んだまま、露台のセシーリアを凝視した。

風に揺れる長い髪。

均整のとれた肢体。

形のよい輪郭に意思の強そうな顔立ち。

これは……。

それから、先程の言葉を思い返してフッと笑った。


『そこのグロディーゼ!これ以上その豹を傷付けるのなら、次はお前の額を射抜くわよ』

この娘は……。

いや、まさか。

……さて、どうしたものか。

「おい、お嬢ちゃん、弓の腕は誉めてやるが何処から来た?女のグロディーゼなんて募集してないぜ」

「なんだ、家出か?行く宛がないなら……俺の家に泊めてやってもいいぜ。ただし、色々楽しませてもらうがな」

下卑た笑いを浮かべたグロディーゼのひとりを見て、セシーリアは無言で弓を引いた。

「うわあっ!」

グロディーゼの爪先ギリギリの地面に、まるで吸い込まれるように矢が突き刺さった。

減らず口を叩いたグロディーゼが眼を見開いて硬直し、アルディンは堪えきれずに声をあげて笑った。

「アルディンとやら。何がおかしいの」

アルディンは、優雅に頭を下げると地に膝を付いてセシーリアを見上げた。

「これはこれは失礼をいたしました。……さて、このようなむさ苦しいところへ貴女のような美しい女性が一体どのようなご用ですか」

セシーリアはアルディンを真っ直ぐに見据えると、迷いなく口を開いた。
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