ラティアの月光宝花
「……大丈夫よ。なにもしないわ。私と一緒にここを出ましょう」

豹はセシーリアに両の牙を見せつけながら、前足をグッと屈めた。

アルディンをはじめ、全てのグロディーゼが息を飲む。

「おい、ヤバイぜ、飛び掛かるぞ!」

「お嬢ちゃん、今すぐ出ろ!」

セシーリアだけが動じなかった。

……大丈夫。

この子は私を咬み殺したりしない。

遠目ながら一瞬だけこの豹と眼が合った時に、セシーリアは何かを感じたのだ。

それをどう表現していいのかは分からない。

けれどセシーリアは、豹の心の内が見えた気がしたのだ。

豹がセシーリアを見据えたまま、柵に添ってゆっくりと歩く。

「さあ、おいで」

セシーリアはそんな豹を見ながら地に両膝を着くと右手を伸ばした。

その瞬間豹が地を蹴り、セシーリアの目の前まで迫った。

それから前足を繰り出し、伸ばしたセシーリアの右手を目にも止まらぬ早さで弾き飛ばす。

勢いよく叩かれた右手が大きく身体の背後まで回り、セシーリアの体勢が崩れた。

「誰か弓をかせ!」

「ダメよ!私の手を弾いて様子を見ただけ。爪は出してなかった!」

アルディンが叫び、それをセシーリアが制する。

次の瞬間、再び豹が宙を飛び、セシーリアにのし掛かった。

至近距離で視線が絡み、豹の生暖かい息がセシーリアの顔にかかる。
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