ラティアの月光宝花
豹の前足がセシーリアの胸を踏み、その重さで肺が潰れそうになる。

「大丈夫よ。私はお前を傷付けないわ。今も、そしてこの先も」

言い終えたセシーリアを、豹がじっと見つめた。

セシーリアの胸の内を推し測っているかのようなその豹の瞳が貴石のように美しい。

セシーリアは思わず溜め息をついた。

「お前の眼はとても素敵ね!」

やがて豹が牙をしまい、その顔を見てセシーリアが弾けるように笑った。

「お前、そうして口を閉じていた方が何倍も可愛いわよ」

それから両手で優しく豹の顔を包み込むと、セシーリアはその頬を撫でた。

「いい子ね」

たちまち、グロディーゼ達がざわめく。

「おい、嘘だろ、信じられないぜ。野生の豹が人に馴れるなんてありえない」

「俺達は今、皆で同じ夢を見ているのか?!」

アルディンもまた同じことを思った。

眼を細め、セシーリアに頭をすり付けて甘えだした豹を見て信じられない思いで眼を見張った。

セシーリアは皆が見守る中、優しく豹に問いかけた。

「私と帰りましょう。道中、他の者がお前を怖がるといけないから、少しの間だけお前の首に綱をかけさせて欲しいの。私と手をつなぐ代わりに」

セシーリアの言葉を理解しているかのように、豹がゆっくりと地に臥せた。

「いい子ね」

柵から手渡された縄を豹の首に結ぶと、セシーリアはゆっくりと立ち上がり、アルディンを見つめた。
< 64 / 196 >

この作品をシェア

pagetop