ラティアの月光宝花
騒ぎを起こしておいて名乗らないなんて、胸の中の正義に反する。

セシーリアはクッと顎をあげるとそこにいる全ての人間を見回し、最後に再びアルディンを見た。

「私は……私はセシーリア。セシーリア・ラティア」

たちまちどよめきが起き、グロディーゼ達が仲間と肩をぶつけ合いながら、慌てて地に膝をついて頭を垂れた。

アルディンの胸はフワリと浮くようであった。

……やはりそうか。

遠目にしか見たことはなかったが、やはりこの娘は『ラティアの薔薇』であったのだ。

「誕生大祭典でお会いしましょう、ラティアの薔薇……セシーリア王女」

そういって深々と頭を下げたアルディンを見てセシーリアがニヤリと笑った。

「またね、アルディン!」

「セシーリア様ー!」

「ラティアの薔薇!」

「王女ー!」

興奮冷めやらぬグロディーゼ達がセシーリアの名を呼び辺りが騒然とするなか、彼女は颯爽と愛馬にまたがった。

「城に戻ったら、お前の名を決めなきゃね」

セシーリアは豹を見下ろして優しく微笑んだ。

本当はシーグルに会いたかったけれど……今日のところは仕方がない。

アルディンをはじめグロディーゼ達がセシーリアを見送る。

美しくも強い精神を兼ね備え、神格的な雰囲気をまとったセシーリア・ラティアをグロディーゼ達は誇りに思い、いつまでもその後ろ姿を見つめた。
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