ラティアの月光宝花

隣国の王子

*****

半月後。

セシーリアの誕生大祭典の準備は、城内外で着々と行われていた。

王都エルフには、ロー・ラティアが任命した主要都市の統治者達が順番に集まり、セシーリアに祝辞を述べては慌ただしく帰っていった。

その度にセシーリアは正装して彼らの前に出なければならず、時間を取られがちであった。

「どうせなら全員で来てもらって、一度に済ませてしまいたいわ」

朝食を終え、神殿の前に広がる庭園の石畳に腰かけて、セシーリアは目の前の池を見つめた。

ハアッと息をついてこう言ったセシーリアをオリビエが優しく諭す。

「帝国中の領主が一斉に王都に集まったら危ないだろう?主要都市ががら空きになる」

「それは……そうだけど」

「そんな事より」

オリビエが声のトーンを変えてセシーリアを見つめた。

「豹のことだけど、どうするんだ?」

「この子の名はヨルマよ」

ヨルマ……オスなのか。

ヨルマは石段の一番上で眼を閉じていたが、自分の名が聞こえるとピクリと耳を動かした。

オリビエが身体をねじり、そんなヨルマを見上げる。

「このまま城におく気?」

「ええ」

セシーリアがヨルマを優しく呼ぶと、彼はゆっくりと立ち上がり、滑るように石段を降りてセシーリアに身を寄せた。
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