ラティアの月光宝花
「先に馬宿に寄って竿を返しに行きましょう。それからザイルに炊事場を借りて魚を焼きましょ」

「うん」

その時、

「セシーリア様」

……オリビエだ。

今朝、仲違いしたダビディアの樹の傍に、オリビエが立っていた。

「なあに、オリビエ」

少し顎を上げてぞんざいな眼差しを向けるセシーリアを、オリビエは静かに見つめた。

「……少し話があります」

「なんだよ、兄さん!今から俺とセシーリアは魚を」

「シーグル。お前は黙っていろ。竿と魚を持って先に戻れ」

オリビエはシーグルを鋭い眼差しで射抜くように見ると、再びその瞳をセシーリアに移した。

「……分かりました」

シーグルにとって二歳年上の兄であるオリビエは、本気で怒らすと恐ろしい相手である。

「じゃあね、セシーリア。魚は……料理長に渡しておくよ」

シーグルが早足で去り、セシーリアとオリビエの間に寒々しい空気が漂う。

それは夕暮れの頼りない明るさも手伝い、互いに奇妙な焦りを生んだ。

「……なに?」

「僕はあなたの護衛役です。それに、貴女の世話係でもある。今後はこのような振る舞いをなさるのは控えてください」

オリビエは言い終えるや否や、唇を引き結んでセシーリアを見据えた。

一方セシーリアは、オリビエのその言葉に笑いそうになった。
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