ラティアの月光宝花
「もうすぐ私は他国の王子と婚約することになるわ。お父様は急がなくてもいいと言ってくださったけど、近い未来私はその婚約者と結婚しなければならない。そうしたらもう今のようにオリビエやアンリオン、マルケルスとも自由に会えなくなるし出掛けることも出来なくなる。……シーグルとも」

そこまで言うとセシーリアは俯いた。

長い睫毛が影を落とし、悲しげに震える。

そんなセシーリアの暗い表情を見ていると、オリビエの脳裏に三年前の出来事が蘇った。


『兄さんにセシーリアは渡さない!!』

『俺はセシーリアが好きだ。いずれセシーリアは俺が守る。兄さんよりも強くなって』


目眩がしそうになって、オリビエは反射的に眼を閉じた。

……シーグルが城を降りてグロディーゼ養成所の門を叩いたのは、これらの言葉を実行するためだ。

あの時、シーグルは僅か16歳にしながら一生涯をかけてセシーリアを守り抜くと決心したのだ。

何故なら、愛しているから。

セシーリアは続けた。

「三年前、シーグルは私に何も言わずに城を降りてしまったわ。どんなに訊いても誰もシーグルの行方を教えてくれなかったけれど、三年経ってやっと居場所が分かった時、どうしても会いたいと思ったの。だってシーグルとは血こそ繋がっていないけれど、私あの子を大切な弟だと思っているの」

一旦ここで言葉を切ると、セシーリアは再び視線をあげてオリビエを見つめた。

「シーグルに会いたい。結婚前に」

「シーグルは必ず帰ってくる。君の誕生日には、必ず」

「どうして分かるの?」

オリビエは小さく息をつくと、セシーリアから眼をそらして武術練習場を眺めた。
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