ラティアの月光宝花
柔らかい風が二人の間をすり抜けていく。

その風に僅かに乱された髪を整えながら、セシーリアはオリビエを見上げた。

「父に、三年で城に戻れと言われているから。だから君の誕生日には必ず帰ってくるよ」

「……そう……なら……もうすぐ会えるわね」

セシーリアは複雑な表情を浮かべたまま、オリビエから眼をそらした。

そうだ。私はもうすぐ成人する。

セシーリアは毎年、誕生日が来るのを心待にしていた。

なのに記念すべき20歳の誕生日をこんなにも来てほしくないと願う事になるなんて。

少しだけ眼をあげると、こちらを見ていたオリビエと視線が絡んだ。

オリビエの榛色の瞳が一瞬甘く輝いて、そんなセシーリアの鼓動が跳ねる。

私は……今もオリビエが好きだ。

オリビエは……バラ園での口付けを覚えているのだろうか。

『もう僕から離れるのは許さない』

三年前、オリビエが護衛の為だけに発したこの言葉を、宝物のように胸にしまっているセシーリア。

あの口づけの意味を期待する気持ちと、一時の過ちを勘違いし、打ち砕かれるのを恐れる気持ちがせめぎ合う。

「セシーリア」

小さく呼んで、オリビエが隣に腰かけていたセシーリアの肩を抱き寄せた。

至近距離からオリビエの綺麗な顔を振り仰ぎ、セシーリアは驚いて彼を見上げた。

忙しなく通りすぎる近衛兵や女中などがいるなかで、オリビエは何を思ってこんな事を。

「あの、オリビエ」
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