ラティアの月光宝花
「セシーリア。僕は君の幸せを祈ってる」

オリ……ビエ……。

これは、別れの言葉。

もうすぐ婚約する私への餞の言葉。

そうだ、私たちは幼馴染みなのだ。

現に、誰もオリビエに肩を抱かれている私を気にも留めない。

それどころかにこやかに頭を下げて、兄と妹を微笑ましいと言わんばかりに優しく見守っている。

国王の側近の息子と王女は、幼馴染み。

昔から、それ以上でもそれ以下でもないのだ。

セシーリアは潰れそうになる胸に手を当てながら、必死になって笑顔を作った。

「ありがとう、オリビエ。私もあなたの幸せを願っているわ」

陽は傾き、辺りを切な気な赤に染め上げていった。

*****

誕生大祭典当日。

「セシーリア様!仰向けに寝転がられましたらせっかく結い上げた髪が台無しになってしまいます!仮眠など取らないで下さいませ!」

髪結い係のユーアが、くっついてしまうほどに眉を寄せて叫んだ。

しかもユーアの怒りはセシーリアだけでなく、床に臥せて眠っていたヨルマにまで及んだ。

「ヨルマ!あなたセシーリア様に飼われているからといってイイ気にならないでちょうだい!そんなところにいたら邪魔で仕方ないわ!今すぐ向こうに行かないなら、鞭でひっぱたいて火の輪くぐりをさせるわよ!」

ヨルマは頭を上げてユーアを見るや否や、小さく鳴くとスルリとその場を離れた。

「ユーア……随分とヨルマが怯えているわよ」

セシーリアがそう言うと、ユーアは早口でこう答えた。
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