ラティアの月光宝花
「私の従兄弟は猛獣使いをやっておりまして、ヨルマのような豹を何頭も従えております。ですから私も豹をみると血が騒ぐのです。そんなことより!」

ギロリとユーアがセシーリアを睨んだ。

その氷のような眼差しにセシーリアは焦った。

「眠かったんじゃないのよ、頭が重いのよ。ねえ、ユーア。ちょっと頭に飾りが刺さりすぎてないかしら」

そんなセシーリアの言葉をユーアが斬って捨てた。

「いーえ!そんな事はこざいません!」

ああ、そう……。

「さあ、次はマリア様が詩の朗読の最終確認にいらっしゃいます。成人を迎えるにあたり、皆への感謝と抱負を述べる感動の詩ですよ。くれぐれも度忘れなどなさいませぬよう」

手際よくセシーリアの髪を直し、その出来映えに満足するとユーアは頭を下げて退出し、それを確かめたヨルマがセシーリアに歩み寄ると膝に顎を乗せて甘えた。

セシーリアはそんなヨルマの首筋を撫でながら苦笑した。

「お前はどうもユーアが苦手なようね」

それを肯定するかのようにキュッと両目を閉じたヨルマに、セシーリアが悪戯っぽく笑った。

「油断は禁物よ。次に来るマリアだって凄く怖いんだから。知ってるでしょ?」

セシーリアを真正面から見つめたヨルマが、参ったと言うように小さくか細い声を上げた。

****

誕生大祭典は、滞りなく進んだ。

実に七日間もの間開かれる祭典の初日はラティア帝国国王であるロー・ラティアの演説から始まり、次にセシーリアの成人の儀心詩といわれる詩の朗読、隣国の王の祝言の数々が続き、その後は盛大な祝宴が繰り広げられた。

セシーリアに至っては十時間に及ぶ任務を全てこなし、疲労のあまり宮廷内の自室の寝台に倒れ込んだ。
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