ラティアの月光宝花
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セシーリアの誕生大祭典最終日。

重要な儀式は一日目で九割方が終了し、二日目以降は国交を深める名目での宴会が城内外で盛大に行われた。

他国の護衛兵も城下の酒場や大浴場付きの宿泊施設で羽を伸ばし、祭典中は無礼講である。

ラティア国のもてなしは卒がなく、誰しもが大満足であった。

「そろそろグロディーゼの大会がはじまるぞ。大広場の闘技場へ見に行こう」

アンリオンの言葉でマルケルスが頷き、セシーリアの護衛役として大広間の上段に付き添っているオリビエに視線を送った。

木管楽器の演奏と声楽隊の奏でる旋律が流れる中、それに気付いたオリビエが静かに頷きセシーリアの耳元に唇を寄せた。

……助かったわ。

セシーリアはホッと息をつくとオリビエに小さく囁いた。

「……行きましょう、オリビエ」

「ああ」

その時である。

「おお、何処へ行かれるのかな、俺の未来の花嫁」

どの喧騒にも染まらない凛とした艶やかな声がして、セシーリアは内心キュッと肩をすぼめた。

ゆっくりと視線をあげると、褐色の肌に精悍な瞳を持つひとりの青年と眼が合う。

セシーリアはその不敵な笑みを眼に写しながら数日前のマルケルスの言葉を思い返した。
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