ラティアの月光宝花
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誕生大祭典初日。


「そろそろ本題に入ろうか」

セシーリアの部屋で皆の顔を見回したマルケルスは、声を抑えてゆっくりと口を開いた。

「この度、セシーリアの婿として立候補したのはサージア帝国、イシード帝国、ルアス帝国の王子達だ」

マルケルスは小さな器に房からちぎったブドウの粒を一つ、二つと入れ始めた。

「まずサージアだがここは却下だ。広大な面積を誇ってはいるが国益はなく軍も少ない。我が国とは長年友好関係にあるが、わざわざ婚姻関係を結ぶ程の価値はない。シド王子自身も極めて温厚で無害だ」

「マルケルス、言葉が過ぎるわよ」

「最後は誉めただろ」

マルケルスは涼しい顔で器に入れたばかりのブドウの一つに楊枝を突き立てた。

「それからルアス帝国だが、現皇帝はかなりのタヌキ親父だ。近隣諸国と同盟を結んではなにかと理由をつけて反故にしたり、そうかと思えばご機嫌取りに自国に招待し、豪勢な宴を開いている。だがその裏では他国間の関係を掻き回し、悪化させる事もしばしばだ。だがルルド王子はまだ幼い。恐らく現皇帝に何かあれば後を継ぐのは弟だろうな」

確かに婿候補の中に、十歳程の子供がいたのをセシーリアは覚えていた。

言い終えたマルケルスは、楊枝を再びブドウに突き刺す。

「一番厄介なのがイシード帝国のカリム皇帝だ。彼は本来、王位につける血統じゃない」

王位につける血統ではない……?

「どういう意味?」

セシーリアが眉を寄せるとマルケルスは物憂げにため息をついた。

「カリムは王位簒奪(さんだつ)者だ」
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