ラティアの月光宝花
「王位簒奪者?」

「ああ。元は若き革命家……もっと言えば奴隷出身者だ」

セシーリアは信じられない思いで皆の顔を見回した。

今まで黙っていたアンリオンが、眉を寄せて酒をあおった。

「凶王の素質大だな」

「ああ。しかも皇帝カリムは我が国の婿になる気など更々ない。イシード帝国にセシーリアを妻として連れ帰り、このラティア帝国を手中に納めようと目論んでいる」

「けどそれじゃ見込みはない。我が国は婿を取りたいんだ。ロー・ラティア皇帝陛下が許さないだろ」

オリビエがゆっくりとした口調でこういうと、マルケルスは頷いた。

「そこだよ。恐らくこのラティア帝国とセシーリアを自分の眼で見に来たんだろう。ああいう種類の男は他人なんか信用しないからな。それから我が国王に打診する気でいるんだろうよ。撥ね付けたら何をするかわからない男だ」

「……うちに侵攻する気か?そんなバカなのかよ」

アンリオンの呆れたような口調にマルケルスが苦笑した。

「簒奪者の厄介なところは、一度成功をみるとやけに自信家になるところだ」

吐き捨てるように言ったマルケルスの声に一同が押し黙った。

「とにかく、この三国の出方をみるしかないな」

オリビエの静かな声に誰もが無言で頷くしかなかった。
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