ラティアの月光宝花
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「何処へ行かれるのかな、俺の未来の花嫁」

大広間には声の主とは別に、サージア帝国とルアス帝国の王子が大勢の侍従と共に鎮座していたが、彼らはセシーリアを只見つめているだけであった。

誕生大祭典の初日、仲間と話し合った内容を思い返しながらセシーリアは声の主に視線を合わせた。

「これはイシード帝国皇帝カリム様。申し訳ございません」

一瞬絡んだ視線を伏せてセシーリアが膝を曲げ敬意を表すと、カリム皇帝は僅かに両目を細めた。

ラティアの薔薇……セシーリア・ラティア。

セシーリアの瞳に浮かんだ僅かな侮蔑の光を、カリムは見逃さなかった。

……さてこのお姫様は、俺が王家の血筋ではなく奴隷出身だというのがお気に召さないのか。

だとしたら残念だが、この女の中身に価値はない。

……まあ、俺はもともと『ラティア帝国の王女』であれば外見も中身もどうでもいいが……。

一方セシーリアは笑いが込み上げそうになった。

俺の未来の花嫁?

褐色の肌に男らしい眉、くっきりとした二重の眼は確かに女の子にとっては魅力的よね。

けれどセシーリアには、その自信がなんとも独りよがりに思えて滑稽であった。

私があなたの未来の花嫁?冗談じゃないわ。

セシーリアは伏せていた瞳を再びカリムに向けると、フワリと微笑んだ。

「わたくしの成人の儀、この誕生大祭典に命を懸けてくれるグロディーゼ(剣闘士)に敬意を表し労いにいかねばなりませんので、失礼いたします」
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