ラティアの月光宝花
剣闘士に労いを?そんなもの、王女の仕事じゃないだろう?

カリムは、そんな王女は見たことも聞いたこともなかった。

皇帝位についてから何度か他国に赴いたが、王女というのは大抵どこの姫も自分よりも階級の低い者とは話さないし、ましてや自ら足を運ぶこともない。

「あなたのような位の高い一国の姫が、グロディーゼなどにそのようなことをなさる必要はありますまい」

「グロディーゼなどとは……どう意味でございます?」

カリムは呆気に取られた。

ニヤついていた顔が次第に真顔に変わる。

どうやら王女は俺の言葉の意味を本当に理解していないようだ。

一方オリビエは、カリムの様子に嫌な予感がした。

大祭典初日と今のカリムでは、セシーリアに向ける眼がまるで違うからだ。

この度セシーリアの婿として立候補した三国の中で、カリム皇帝の統治国つまりイシード帝国は軍人の数も多く国も豊かだ。

しかもマルケルスによると彼は簒奪者で、我がラティア帝国の婿に入る気など更々ないのだ。

婿に入る気はないが、セシーリアに興味がある奴隷出身の簒奪者……。

たちが悪い。

「セシーリア。行こう」

「あ……そうね」

オリビエがさりげなくセシーリアの耳元で囁き、二人の間に立つとカリムの視線を遮る。

「俺もご一緒していいかな、セシーリア王女」

背後からのその声に、オリビエは内心舌打ちしたが、セシーリアはにこやかに微笑んだ。

「もちろんですわ、カリム皇帝陛下。この大会は来賓者をおもてなしする為のものでもあります。是非、我が国の屈強なグロディーゼ達の試合をお楽しみください」

「……ではお言葉に甘えて」
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