ラティアの月光宝花
……護衛役?

確かこの間、グラデス(短剣)での剣術試合をした時、勝ったのは私だったじゃないの。

そのもっと前の、スティーダ(長剣)の時も。

剣術も馬術も、あと一手のところでいつもセシーリアはオリビエを打ち負かしてきた。

それを、どの口が言っているのかしら。

「頼りない護衛はただの足手まといよ。それに城の周りには五番隊以上の近衛兵が常に配置についてるじゃないの。だからこそ門兵も、私が川に行くのを許してくれているのよ。あなたがいなくても問題ないわ」

セシーリアはオリビエを真正面から見据えると、薄ら笑いを浮かべてこう言い放った。

確かにラティア帝国の王族の住み処であるこの城は、周囲を深い森と湖に囲まれた小高い山の上にあり、安全性は高い。

しかもその城壁は、敵の侵略を許さぬ高さを誇っている。

だが。

オリビエは、ああ言えばこう返すであろうセシーリアを恨めしく思った。

「…………」

……ほら、何も言えないじゃないの。

セシーリアは続けた。

「お父様はどうしてお前を護衛役に選ばれたのかしら。アンリオンかマルケルスのが男らしくて逞しいのに」

アンリオンとマルケルスも同じく、セシーリアの父、ラティア国王の側近の息子達である。

彼らにも兄弟はいるが、セシーリアとオリビエ、それにアンリオンとマルケルスはとりわけ仲が良かった。

「…………」

どうしてなにも言わないの。

何も言わないのに、榛色の瞳を真っ直ぐこちらに向けるオリビエを、セシーリアは腹立たしく思えた。
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