ラティアの月光宝花
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「アンリオン!マルケルス!」

セシーリアの為に設けられた玉座の隣に、早々と見知った二人が揃っていた。

「お父様は?」

セシーリアは父王であるロー・ラティアの姿を探したが、その一際見事な細工の施された椅子に彼の姿はなかった。

「帰路につく隣国の王達との最後の御歓談だ。俺達の父上も一緒にな」

「……そう」

昼前、ロー・ラティアはセシーリアの誕生大祭典終了の挨拶をし、セシーリアも来賓の前で一言感謝の言葉を述べて最後を締めくくった。

午後から始まるグロディーゼの大会は大祭典の大取りだが、いわば誰もが無料で楽しめる国民の為の娯楽だ。

国をあげて行う行事の際は、招待した国賓と入れ換えに城内の闘技場に入る市民の数は増え、まさに内輪の余興と化すのが毎度の事である。

「セシーリア様ー!」

「王女ー!」

ざわついている一般市民が、セシーリアの姿を見付けて盛大な歓声を送った。

セシーリアはそんな彼らに高らかに手を挙げると、にっこりと微笑む。

その時だった。

「セシーリア王女!」

闘技場の端……グロディーゼ入場門付近から、よく響く声で何者かがセシーリアを呼んだ。

セシーリアにはその声の主がすぐに分かった。

姿を確認する前に、無意識に彼女の頬が緩む。
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