ラティアの月光宝花
急いで身を乗り出すと、セシーリアは玉座の設置してある露台から下方向を覗き込み、声の主を呼んだ。

「アルディン!」

「お久し振りです、セシーリア王女」

その様子を目の当たりにしたオリビエは、無意識に両目を細めて闘技場の青年を凝視した。

……誰だあれは。アルディン……?スラリとしているわりに盛り上がった筋肉や、軍神の横顔を打ち出した鎧を身に付けているところを見ると、グロディーゼであることは間違いない。

一瞬、何故こんな風にセシーリアが親しげな眼差しを向けているのかが分からなかったが、すぐにオリビエは察した。

恐らくセシーリアは、シーグルを探しに城下へ降りた時にこのグロディーゼと接点を持ったのだ。

「セシーリア。誰だ」

オリビエの感じた疑問を、アンリオンが口に出す。

「シーグルに会いに行った先で友達になったグロディーゼよ。養成所の一番偉い人」

その言葉にたちまちマルケルスが溜め息を漏らす。

「全くお前は。王女が気安く誰とでも友達になるんじゃない」

たしなめるようなマルケルスの口調にも、セシーリアは悪びれる様子がない。

「アルディン、ヨルマ……あの時の大豹、今じゃ凄く皆と仲良しなのよ!」

マルケルスをアッサリと無視したセシーリアに、アルディンが白い歯を見せて笑った。

「それはそれは。ヨルマは希にみる幸運の持ち主ですね。会いたいものです。ヤツは俺を許してくれるでしょうか」

その言葉にセシーリアが大きく頷く。

「まあ、一撃は覚悟しておいたほうがいいかもね」
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