ラティアの月光宝花
その会話を聞いていた大勢の観客からも笑い声が上がる。

……なるほど……。

ポンポンと飛び交う会話と和やかな雰囲気を、ひとり冴え冴えとした眼で見据える男がいた。

イシード帝国のカリム皇帝である。

カリムは花のように笑うセシーリアの横顔と、彼女を見守るかのような市民をさりげなく見回しながら思った。

これは……案外容易いかもしれない。

このラティア帝国を手にいれたくば、やはりセシーリア王女を意のままにするのが一番である。

婿に来る気などないが、豊かなこの国はどうしても欲しい。

さて、となると……。

カリムは下げられない口角を手で隠しながら、思考を巡らせた。

その時、セシーリア達の玉座からそう遠くない距離で司会進行係が注目を求めようと専用の笛を吹いた。

皆の意識が自分に向いた瞬間を逃さず、司会者は声を張り上げる。

「皆様、御静粛に。我がラティア帝国の薔薇、セシーリア王女の誕生大祭典の最後を飾りますグロディーゼ闘技大会が、まもなく始まります。ラティアの誇りであり英雄であるグロディーゼの雄姿をとくとご覧くださいませ!」

歓声が闘技場を包み、地響きにも似た震動が生まれたが、男は高らかに挙げた両手でそれを制止し、続けた。

「この度、グロディーゼ達が挑むのはラティアの北西に広がるリズの森で生け捕りにした大熊です!グロディーゼと大熊の命を懸けた闘いを是非御堪能ください!」

このところ、リズの森に生息している熊が激増し、ラティアでは人的被害が多発している。
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