ラティアの月光宝花
「恐れながらカリム皇帝陛下。本日は我が姫の誕生大祭典でございます。姫という立場上、あまり血生臭い闘いを見せる訳にはいかず、些か迫力に欠けました事をお詫び申し上げます」

「……」

カリムは静かに笑いを消してオリビエを見据えた。

……確かこの男は……姫の肩を抱き、耳元で何か囁いていたが……一体どういう関係だ。

格好は軽装だが、腰の長剣の柄頭にはラティア兵士の紋章が刻み込まれている。

だが、ただの護衛兵にしては親しすぎる。

「王女。この者は?あなたとどういう関係なのかお聞かせ願えるかな?」

「っ……」

オリビエとの……関係……。

キラリと射るような眼差しに、セシーリアはドキッとして喉を動かした。

けれどすぐに言葉を返すと、そっと瞳を伏せた。

「この者はオリビエ・ドゥレイヴと申しまして城内での私の護衛役でございます」

「ほう!ではさぞかし腕の立つ者なのでしょう」

カリムはここまで言うと一旦言葉を切り、後ろを振り返ると上段までぎっしりとつまったラティアの市民をグルリと見回した。

「隠し事をしても仕方がない。……俺は現在イシード帝国の皇帝という立場だが……以前は革命家だった。もっとさかのぼれば……剣奴だ」

辺りが一気にざわめいた。

剣奴というのは、剣闘を専門とする奴隷の別名である。

カリムは続けた。

「オリビエ・ドゥレイヴ。こんな俺をどう思う?セシーリア姫の婿として」
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