ラティアの月光宝花
客は固唾を飲み、セシーリアは心臓を掴み上げられたようにビクッとした。

アンリオンは無意識に腰のスティーダを握りしめ、マルケルスは奥歯を噛み締めて切り抜ける方法を目まぐるしく考える。

「顔を上げて俺をよく見ろ。オリビエ・ドゥレイヴ」

オリビエ……!

膝をついたままのオリビエが静かにカリムを見上げた。

「……」

「……」

互いの視線が絡む。

オリビエの瞳に浮かんだほんの一筋のぞんざいな光を、カリムは素早く捉えた。

それから、本能的にこう悟った。

……この男は……消しておかねばならない。

イシード帝国での剣闘士は、死ぬ為の奴隷でしかない。

その中で少しでも長く生き延びるためには、相手の本質をいち早く見抜く能力が必要だった。

カリムは、それを上手く身に付け相手の裏をかき、闘いで勝ち続ける事が出来た数少ない剣奴であったのだ。

目の前のオリビエ・ドゥレイヴは、明らかに俺を蔑み、軽んじている。

腹の底ではこう思っているのだ。

仲間の剣奴をそそのかし、革命家などと体の良い風を装いながら、彼らを踏み台にし、前皇帝一族に奇襲を掛けた裏切り者の簒奪者だと。

一気にカリムの身体の中をどす黒い怨みが根を張り枝葉を広げた。

自分を捨てた親、最初に売られた家人に容赦なく性のはけ口にされた屈辱、剣闘士養成所の欲にまみれた主人の顔が目まぐるしく脳裏を駆け巡り吐き気がした。
< 89 / 196 >

この作品をシェア

pagetop