ラティアの月光宝花
通った鼻筋、切り込んだような二重の眼。

それに控え目だが軽薄さを感じさせない適度に厚みのある唇。

セシーリアは、そんなオリビエの端正な顔を見つめているうちに、自分の鼓動が徐々に早くなるのを感じて唇を噛んだ。

悔しい……人の気も知らないで。

そう。

オリビエは、何も分かっていない。

分かっているのはセシーリア本人だけだ。

セシーリアはとうに、この感情の名称を知っていた。

何故ならこの感覚は、セシーリアの愛読本である《星霜の彼方》で主人公の王女が、見目麗しい隣国の王子に抱いたそれと寸分違わなかったからだ。

王子に恋をした時の感覚を、本の中で王女はこう示していた。

『ああ、私は分かっているのです、この想いの正体を。
あの方の眼差しや、ひとつひとつの仕草が全て私にとっては意味を持つようになってしまいました。
あの方を想う時の私は、たったひとりで小さな小舟に乗り、大海原へ出てしまったような気になります。ある時は激しく心臓が脈打ち、またある時は温かいものに包まれ、フワフワと羽が生えたように浮きそうになります。そしてたちまちのうちにその心地よい感覚から、稲妻に撃たれでもしたかのように両手両膝をつき、打ちひしがれてしまうのです。
この感覚は恋以外のなにものでもありません。イザボー、あなたは笑うかもしれませんが、どうしようもないのです。私の全ての感覚があの方へと向かっていってしまうのを、私は止める術を知らないのです』

……恋。

そう、これは恋なのだ。

私はオリビエに恋をしている。

今思えば、セシーリアはずっと前からオリビエを好きだった。
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