ラティアの月光宝花
それが、目の前のオリビエ・ドゥレイヴの眼差しと重なりカリムの胸を圧迫する。

限界だった。

「俺と手合わせ願えないか、オリビエ。セシーリア姫の護衛役の座をかけて」

な、んだと……?

オリビエが眼を見開き、マルケルスはスティーダを引き抜こうとしたアンリオンの腕を掴んで止めた。

「……カリム皇帝陛下。あなた様のように強く逞しいお方の相手など、このオリビエに務まる筈がございません。何卒ご容赦を」

何も言えないでいるセシーリアに代わり、マルケルスが身を低くしてこう言ったが、カリムはうっすらと笑った。

それから、

「きゃあっ!」

なんとカリムは眼にも留まらぬ早さでセシーリアに腕を伸ばすとその腰を抱き寄せ、あろうことか彼女の唇を奪った。

反動でセシーリアの衣装が大きく乱れ、その荒々しさが遠い観客にもはっきりと伝わる。

たちまちアンリオンが気色ばんだ。

それからマルケルスを振り切ってスティーダを引き抜くと、腰を落として低く構えた。

だがそれよりも早く動いた人物がいた。

オリビエだった。その場の誰よりも早く、オリビエのスティーダの切っ先が、カリムの喉元をピタリと捉えたのだ。

「受けて立ちましょう。イシード帝国カリム皇帝陛下。だがまずは我がラティアの姫から、その手を離していただきたい」

静かに、それでいて怒りを宿したオリビエの榛色の瞳が、真っ直ぐにカリムを見ている。

「オリビエ……」

カリムから自由になったセシーリアが、伸ばされたオリビエの手にしがみつき、涙声で彼を見上げた。

「オリビエ、やめて」

「心配しなくていいよ、セシーリア」
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