ラティアの月光宝花
「オリビエ、何とか持ちこたえろ。直ぐに王に知らせる」

「……分かった」

マルケルスが闘技場を飛び出し、アンリオンがオリビエと共に地下に向かった。

どうしよう、どうしようっ!

セシーリアは痛いくらい脈打つ心臓をどうすることも出来ず、ただ両手を握りしめた。

闘技場ではアルディンが固唾を飲んで事の成り行きを見守っていたが、やがて城内へと足を踏み入れたカリムとオリビエを見て地に膝をついた。

「アルディンとやら。お前にはがっかりだ。目の前から消えろ」

「………」

カリムの傲慢な声にアルディンは僅かに視線を上げてオリビエを見た。

「アルディン。素晴らしい闘いを感謝する」

オリビエはそんなアルディンに短く声をかけると、腰のスティーダ(長剣)をスラリと抜いた。

「ご武運を」

「オリビエ」

アルディンの声をかき消すようにカリムが声を響かせた後、オリビエを一瞥した。

「宮廷育ちで実践も積んでいない飾りのような護衛兵にとっては酷かもしれんが…… 俺は剣闘士出身で、やるかやられるかの闘いしかして来なくてな。悪いが手加減が出来ない」

「こちらこそ申し訳ございません、カリム皇帝陛下。この命は姫の身を守る為だけに存在しておりますゆえ、私の方も手加減が出来ないのです」

カリムは、抑えつつもこちらを牽制するオリビエを嬉しく思った。

闘技場の砂を踏んだ瞬間剣奴時代が蘇り、相手の息の根を止める事に微塵の罪悪感も感じなくなる。
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