ラティアの月光宝花
カリムがオリビエの剣を押し返しながら足払いを掛けるも、華麗にそれをかわしたオリビエは二撃目を繰り出す。

「……っ!」

上半身を仰け反らし、オリビエの攻撃を避けた筈のカリムは、頬に鋭い痛みを感じて思わず息を飲んだ。

反射的に指で拭ったが、見るまでもなかった。

ヌルリとした感覚、鉄と生臭さの混ざった嗅ぎ馴れた匂い。

確かに最近は剣の稽古など久しくやっていない。

だからといってこんな奴素人に俺がやられるか?!

傷を受けた左頬がドクドクと脈打ち、口に入り込んだ血を忌々しげにブッと吐くと、カリムは息も乱さぬオリビエを睨み付けた。

それから切り込んで来られる前に地を蹴り、身を屈めて水平にした剣をオリビエの膝に打ち込む。

身体をふたつに分けてやる!

ところがオリビエは後ろ手に出した剣でそれを弾くと、そのまま片足でカリムを蹴り上げた。

「グッ……!」

たちまち円形の闘技場から歓声が上がり、カリムは屈辱に震えた。

……剣奴王の俺が……!イシード帝国皇帝の座に登り詰めたこの俺が!!

怒りのあまり全身が震えるのを必死で抑えると、カリムは不敵な笑みを浮かべてオリビエを見た。

「なかなかやるじゃないか、オリビエ。だがこの辺で終わりだ」

「……っ!」

言うや否や、カリムがグラデスの柄頭を口にあてがいプッと勢いよく吹いた。
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