ラティアの月光宝花
「っ!」

なんだ、今首に……!

一瞬訳がわからなかったが、カリムがグラデスを吹き矢のように吹いたのを思い返して、オリビエはやられたと思った。

「オリビエ!!」

ちきしょう、吹き矢だ!あのグラデスには毒針が仕込まれてる!

オリビエの一番近くにいたアンリオンは、カリムの仕込まれたグラデスに誰よりも早く気付いたが、あまりにも一瞬の出来事であった為になす術がなかった。

「オリビエ!」

アンリオンは門を開けると闘技場の中へ飛び込む。

一方セシーリアは、何がなんだか訳が分からず眼を見開いて硬直した。

膝をついたオリビエの顔がみるみる蒼白に変わる。

「オリビエ!」

それから思いきり露台から身を乗り出し、声の限り叫んだ。

どうしよう、どうしよう!!

騒然とする闘技場の中で、カリムだけが高らかに笑った。

それから悠々と歩き、地に転がっていたスティーダを拾い上げると手首を回転させ、切っ先をオリビエへと向けた。

「さらばだオリビエ。セシーリア姫は俺がいただく」

その時だった。

「っ!!」

駆け寄ろうとしたアンリオンよりも早く、一本の弓矢が空を裂いてカリムの長剣に命中した。

その重い衝撃に、カリムの腕がグラリと動く。

「誰だっ」

皆が矢を放った人物を探す中、怒気を含んだカリムの声に何者かが答えた。

「途中まではよかったが、余裕がなくなったからといって毒針を使うとは……あまりの卑劣さに呆れてものも言えないな」
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