ラティアの月光宝花
カリムの顔から笑みが消えた。

「たかが護衛兵だ、ラティア皇帝。それよりも俺とセシーリア姫の結婚によって、わがイシード帝国とラティア帝国との結び付きを強めるのが重要ではないかな?」

勝ち誇ったようなカリムに、ロー・ラティアが返答する。

「あなたが毒針で殺そうとした護衛兵は、大切なラティアの民だ。もっと言えば我が友であり、ラティアきっての最高策士であるこのレイゲン・ドゥレイヴの息子」

ロー・ラティアは一旦ここで言葉を切ると、鋭い眼差しでカリムを見据えた。

「カリム皇帝。このラティアには、余興で失っていい命など一つとしてあり得ない」

カリムは眉を寄せてロー・ラティアを見上げた。

……つまり、たとえ隣国の最高責任者でも、罪もないラティアの民を殺めるものは見過ごせないと?

……ロー・ラティアはそんな甘い考えで一国を治めているのか?

思わずフッと笑いがこぼれそうになったカリムに、ロー・ラティアは続けた。

「我がラティアは婿をとらねばならない。民のために。イシード帝国とは別の方法で友好関係を深めたい次第だ。カリム皇帝陛下、どうぞご理解願いたい」


*****


数時間後。

「カーロ、オリビエはどう?」

セシーリアの切羽詰まった声に、宮廷医のカーロはフワリと微笑んだ。

あれから数時間の間、オリビエの意識は朦朧としていた。

その間にロー・ラティアをはじめ、多くの者がオリビエを心配してやって来たが、全員と面会出来る状態ではなかった。

そんな中、セシーリアは部屋の入り口から離れず、ただただオリビエの意識がはっきりするのを待ちわびていた。
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