For You 〜 天使だった君に 最高のお返しを

「答えたくなかったら、答えなくてもいいんだけど。……養子か里子、だったりする？」


なるべく軽い口調で、明るい表情で、あくまで確認という雰囲気で聴いた。

彼に刺激を与えないように、彼を傷つけないように、それだけを考えた。


すると、彼は急にすっと真顔になった。

いつも、優しげに上がっている口角が、本来ある位置に戻った。


やはりダメだったか。発言をすぐに取り消そうとしたが、それよりほんの少しだけ早く彼は私に質問を返した。


「何で？」


真顔で、抑揚なく発せられたその言葉に、私はさらに焦った。

聞いたこともない声色だった。

きっと、養子や里子じゃないにしても、彼の心を何かしらえぐってしまった。


「いや、違う！忘れて。聞かなかったことにして」


そう言って、私は踵を返し、逃げようとした。

もう、こんなことを言ってしまったからライブに誘ってもらえないと悲しくなった。


言わなければよかった。

しっかり、考えるべきだった。


が、背を向けた瞬間、彼に手首を掴まれた。


「別に怒ってないよ。ちゃんと理由を聴かせてほしい。誰かから聞いたの？」


彼の声は優しげな色合いを含んでいたが、それはいつものように自然と含まれるものではなく、必死で尖る声を丸め込んでいるかのような声だった。

そしてその声は、答えないことを許さない声だった。


私は、彼の心を傷つけたお詫びに、彼の方に向き直り、ありのまま話した。



「･･････歌詞。『暗くて寂しくて何も見えなくて　捨てられたごみのように　僕は必要ないと思った』のとこだけ、何か違う感じがした。他のところよりも、感情がこもってる気がしたの」



自分からこの空気を作ったくせに、早く逃げ出したいと思った。


彼から真顔で真剣に見つめられるのは、拷問のようだった。





少しの沈黙が、私にはひどく長く感じられた。

一秒でも早く、この目から解放されたい。




彼は、真剣な表情のまま、ごくりと唾を飲み込んで、この流れで出て来るはずのない、衝撃の一言を放った。