For You 〜 天使だった君に 最高のお返しを

どのくらい経ったのか分からない。

心電図の機械音も消えている。

いつ消えたのかも分からない。


病室からはすでに誰もいなくなっていた。

いつの間にか日もとっぷり暮れていた。



寒いと思った。

でもどうすればいいのか分からない。体が動かない。



体が動かないだけではない。


こういうとき、何も言わなくても上着をかけてくれる人がいたのだ。


寒いと感じたちょうどそのときに。

あたかも、私が寒いと思うのを待っていたかのように。


こうして、今も心のどこかではかけてもらえるのではないかと思っている。





今目の前に、一人の男が眠っている。

二度と起きることは――無い。



いつ誰がかけたのか分からないが、男の顔には白い布がかかっている。

だからもう表情は見えない。


彼がここにいるのか信じることが出来ない。


もしかしたら、ここに横たわっているのは知らない人なのかもしれない。

彼とは全く関係の無い別の人なのかもしれない。


彼が動いていないなんて、信じることが出来ない。


これは夢なのではないか。

悪夢を見ているのではないか。


昔から悪い夢を見ることが多かった。

だからきっとこれも――。



だが、今まで彼がこうなる夢は一度も見たことが無い。

助かる夢ばかりだった。


助かって結婚する夢。

助かって一緒に暮らす夢。

助かって子どもが生まれる夢……
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