For You 〜 天使だった君に 最高のお返しを
「びっくりしたけどね、キモいとは思ってないよ」


ゆっくりとひと単語ずつ話す私の言葉を彼は真剣に聞いてくれた。

そのせいで尚更、恥ずかしくて彼の顔をまともに見れない。


「それにね……井上くんの曲は全部好きだから、新しい曲を1番に聴けるのは……嬉しい」


なんとか言いたいことを纏め終えた。


反応がないなと思って彼を窺うと、目を見開いて硬直している。

どんな感情の表情か分からない。


少しして、また彼は右手をおでこに当てた。

今日は何度もこの表情と仕草を見る。


「……いや流石にそれは反則だって！」


反則というのはどういうことか分からないけれど、どうやら彼が照れているらしいのは分かった。

その様子を見ていると、自分の言った言葉がだんだんと思い出されて、こちらまで恥ずかしくなる。


彼は自分の手をペタペタと顔に当てている。

紅潮して熱くなった顔を冷やしているらしい。


あまりに長い間彼が照れているので、こっちまで頰を冷やしたくなったとき、彼は深呼吸を始めた。

それから、あーっ！と大きく声を出して、頭をぶんぶんと振っている。


「歌います！『陽の光』という曲です！」


彼はもう何度か深呼吸をすると、大きく息を吸い込んだ。

ほんのさっきまで照れて顔を赤らめていた彼なのに、息を吸い込んだ瞬間、人格が切り替わったかのように表情を変えた。

一瞬で周りの空気が澄み渡るのを感じた。


窓から差し込んでいる、眩しくも気持ちがいい朝の陽の光が似合うような、爽やかでスキップするようなテンポ感の曲だ。


私を思い浮かべながら作った曲が、こんなにキャッチーな曲になるのを不思議に思った。
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