高橋くん攻略法
「そういえば昨日の女の子はどうだったの?」
準備運動を進めながら弥生が唐突に尋ねてきたので、昨日の高橋くんの顔を一瞬思い出してしまった。鼻の先を真っ赤にして、必死に弁明するあの顔。メガネの奥にある真っ黒な瞳が少しだけ潤んでたっけ。
「ふふっ」
「どうしたの?急にニヤけちゃって」
「え、ニヤけてた?」
「うん、おもいっきり。その反応ってことは昨日もうまくいったんだ?」
「あぁうん、まあね」
「いいかげん自粛しないと知らないよ?」
「はいはい」
弥生の言葉をさらりと受け流しながらも、分かっているつもりではいる。相談にきてくれた皆を騙してること。知りもしない知識を披露して、もしもバレてしまったらきっと皆からは裏切られたと思われても仕方ないんだろう。
それでもやっぱり頼られると嬉しく感じてしまって、どうしてもやめられないのだ。ゲームくらいしか取り柄のないこんな私でも、皆に必要として貰えているような気がして。それでも皆を騙してしまっていることには変わりないんだろうけれど。
「おーい、お待たせ」
大きなエナメルバッグを肩からさげたジャージ姿の佳祐が呑気な声で教室に入ってきた。サッカー部に所属している幼なじみを弥生と一緒に待つ時間も恒例となっている。
「佳祐遅いよー待ちくたびれた」
私がそう言うと佳祐は「悪い悪い」と、まったく悪びれる風もなくそう返すのだった。
呆れて目を細めた私の真横を綺麗にカールされた髪の毛先がかすめていく。瞬間、弥生の細い腕が驚くほどの俊敏さで佳祐の首に回されキッチリとホールドをかけられた。一体あの腕にどんな力が秘められているのだろう。
一瞬すぎる出来事に佳祐は身動きをとる暇もなく、首を締め上げられた今になって足をバタバタと激しくばたつかせている。どうやら一発いれるというのは本気だったようだ。