記憶のカケラ



「おはよう」

「おはよう」


いつも通りの朝の風景。

廊下から3列目、窓から4列目、前から2番目の席。

黒板がよく見えるお気に入りの席。


挨拶もなく席に座って、朝学活の前の小テストの勉強を始める。

後ろでは、まだ、ぽつぽつと、「おはよう」の声が飛び回ってる。


ふっと左上を見る。

まだ人が少なめな8時15分。あと5分もしたら、人が増えてくる。

視線を落として、また英語のテキストを眺め始める。


朝の教室は穏やかだ。

光の差し込む、人の少ない教室は、静かで、ほっとする。


テキストのテスト範囲を読みはじめて、2周目に入った辺りで、近くから声が聞こえた。


「おはよう」


ああ、また誰か来たのか


「おはよう」


あれ?返事がないまま同じ声が、同じ言葉を口にしている。

変なの。無視されてんのかな?


「ねえ、おはよう」


目の前で手を振られた。

そこで初めて気づく。


「え、わたし?」


私の中の平穏を支えていたなにかが、どこかでそっと、崩れ落ちた。


静寂を突き破る、朝の挨拶。 

どこにでもあるような、いつもの朝の教室のこと。


驚きに固まったままの私の耳を、担任が発した小テスト開始の言葉がすり抜けていった。

< 10 / 10 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

水が降りるとき

総文字数/14,236

その他26ページ

表紙を見る
嗚咽と共に毒を吐き出す

総文字数/5,013

詩・短歌・俳句・川柳25ページ

表紙を見る
白雪姫(継母目線)

総文字数/9,069

絵本・童話73ページ

表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop