記憶のカケラ
「おはよう」
「おはよう」
いつも通りの朝の風景。
廊下から3列目、窓から4列目、前から2番目の席。
黒板がよく見えるお気に入りの席。
挨拶もなく席に座って、朝学活の前の小テストの勉強を始める。
後ろでは、まだ、ぽつぽつと、「おはよう」の声が飛び回ってる。
ふっと左上を見る。
まだ人が少なめな8時15分。あと5分もしたら、人が増えてくる。
視線を落として、また英語のテキストを眺め始める。
朝の教室は穏やかだ。
光の差し込む、人の少ない教室は、静かで、ほっとする。
テキストのテスト範囲を読みはじめて、2周目に入った辺りで、近くから声が聞こえた。
「おはよう」
ああ、また誰か来たのか
「おはよう」
あれ?返事がないまま同じ声が、同じ言葉を口にしている。
変なの。無視されてんのかな?
「ねえ、おはよう」
目の前で手を振られた。
そこで初めて気づく。
「え、わたし?」
私の中の平穏を支えていたなにかが、どこかでそっと、崩れ落ちた。
静寂を突き破る、朝の挨拶。
どこにでもあるような、いつもの朝の教室のこと。
驚きに固まったままの私の耳を、担任が発した小テスト開始の言葉がすり抜けていった。