記憶のカケラ
そんなわけない。そんなわけないだろ。笑い飛ばそうとして、失敗した。
「消えてみたいって思ったこと、あるでしょ」
妙に確信を持って放たれた言葉にはぎょっとした。
いつも思ってたわけじゃない。けど、ここのところずっと、それをよく考えていた。そう思っていた頃のこと。
一瞬、心でも読まれたかと思って、固まって、でもすぐに思い直して笑った。
「冗談だろ、考えたこともねぇよ。」
普通なら気づかれないくらいの、ほんの少しの間。けれど、どうしたって不自然な間。
目の前のそいつは、当然のようにソレに気づいて、一瞬目をパチクリとさせて、イタズラっぽく笑った。
「あは。かぁ~わいいねぇ。嘘のヘタな君が僕は好きだよ」
……訂正。イタズラっぽく? 違うよ。悪魔のようにニヤリと笑ったのさ。
親友のその見慣れた端麗な顔に、僕の表情がひきつったのは言うまでもない。
ただ、一言だけ反論したかった。
僕がそっぽ向きながら呟いた言葉に、珍しくそいつが純粋に驚いた顔して目を丸くしたから、
「お前がいるのに消えたいとか思うわけないだろ」
…ここにいられてよかったな、なんて思ったんだ。ずっと、この穏やかな時間が続けばいい。
間をおいてから、そっか、と微笑んだ君が、ずっと僕の隣にいてくれたらと思う。
唯一無二の、僕の友だち。
君と出会えてよかったと、心底から思うよ。